中カツ!通信 第190号 10年ぶりの国勢調査から見えてくる中国の未來
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こんにちは、中カツ!通信の野村です。
「人口が国力を表す」
「人口動態を見ていれば、その国の未來がわかる」
というようなことが、よく言われます。
国力という言葉自体の定義が難しい用語であるものの
「確かに人が多くいたほうが、働く人も多く、税金も集まるし、
有事の時にも何かと有利そうだ」
という想像はできます。
また人口動態は
中カツ!通信 第186号 文系出身者は発展の邪魔?!人民銀行の報告書
でも紹介したように
社会の発展にともない出生率と死亡率の関係に変化が起き、社会に大きく影響を与える
ことから当たる可能性が高い未来予測だと言われております。
2021年5月11日、第七回目の人口普查(国勢調査)の結果が発表されました。
この人口普查は10年に一度行われており、1960年、1970年というように下一桁が”0”の年に行われてきました。
なぜ10年に一度かというと実施の負荷が非常に重たいからですね。
中国の広大な国土と膨大な人数を調査するのは一大プロジェクトです。
今回は700万人以上の調査員が動員されたとのこと。
http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/202105/t20210510_1817176.html
昨年、全世界従業員が100万人をこえるというニュースがあったアマゾンの7倍です…
国内外で注目される700万人動員した10年ぶりの人口統計の気になるポイントを早速みていきましょう!
1、総人口について
今回の調査で総人口は14億1178万人
前回2010年の調査から5.38%の7206万人が増加しました。
ご存知の通り、この14億1178万人という人口は世界一です。
ちなみに
アメリカの2019年の推計値が
3億2,824万人
https://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/basic_01.html
EU27か国の2019年の統計で
4億4,682万人
https://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/basic_01.html
ですので合計しても中国人口の半分ちょいの7.7億人です。
「どこの国の人に売るべきか?」
という問いに対して中国が真っ先に挙がるのも納得です。
(もちろん国民全員が均一で自社商品のターゲットになるわけでないので国という単位でマーケットをとらえることに意義があるかは別です)
2、生産年齢人口
続いて、生産年齢人口についてみてみましょう。
中国では男性は満60歳、女性は55歳と50歳で定年退職となります。
そのため生産年齢も15-59歳と定義されています。
今回の調査で生産年齢人口は8億9438万人(63.35%)となり、2010年の調査からは6.79%の減少となりました。
実は生産年齢人口は2012年から既に減少トレンドとなっております。
中国でも都市部を中心に人手不足が叫ばれており、給与がどんどん上昇しているのは、経済が発展して働き手の需要が増加しているというだけでなく供給自体も減ってきているからなのですね。
・工場での自働化設備の普及
・レストランでの無人オーダーの普及
・RPA、AI等のホワイトカラーの省力化
といった、DXがなぜ人口の多い中国で早く広がっていったのかもわかります。
では生産年齢人口が減ったのに総人口は増加となると、どの年齢層が増えているのでしょうか?
3、老齢人口について
高齢者(60歳以上)は前回の調査から5.44%増加し、2.6億人(18.7%)となりました。
日本同様に65歳以上を高齢者とした場合でも1.9億人(13.5%)となり、高齢社会の14%という基準に2021年には突入することが予測されます。
ちなみに日本の高齢者率は28.7%(2020年)で超高齢社会と定義される21%以上に突入したのは、遠い昔の2007年です。
中国も速いスピードで高齢化が進んでいるだけでなく、人口の母数が大きいので介護分野を始め日本のシニア向けビジネスには大きな注目が集まっています。
介護は国家福祉の根幹ですので国によって制度が大きく異なり、日本での成功モデルを、そのまま再現できるわけではないものの、高齢社会先進国の日本企業にとっては中国市場は大きなチャンスがあると言えますね!
4、少年人口について
高齢化とセットで語られる少子化についてはどうでしょうか?
0-14歳の人口割合は10年前の調査から1.35%増えております。
この人口増加に大きく貢献したのが、
2016年からの全面的二人っ子政策への転換です。
それまで溜まっていた第二子 出産意欲が爆発し2016年には前年比130万人以上増加の1786万人が誕生しました。
翌年2017年も1700万人を超える新生児が誕生したものの、過去の意欲は出し切ってしまったのか2020年には1200万人と2016年対比33%の減少となっております。
ただ、この数値に対しても海外メディアから
「統計を水増ししているのではないか?」
との疑惑が上がりました。
疑う根拠として、過去の年次統計(サンプル調査)よりも人口数が大きく増えているというのです。
これについては統計局から
「国勢調査の対象年以外は、サンプル調査による推算のため誤差がある。今回の調査の漏れ率は0.05%」など疑問点に回答する文章がHPに掲載されました。
http://www.stats.gov.cn/tjsj/zxfb/202105/t20210512_1817360.html
この年とともに過去の年の出生数が増えていくという現象には思い当たることがあります。
中国では一人っ子政策の時代、そして二人っ子に緩和された今でも、それを超える出産の場合は実質的な罰金(現在の名称は社会扶養費)があります。金額もかなり高額で地域によってバラツキはあるものの広東省では32万元(約500万円)もの罰金を払った例があります。
また所得によっても変わるらしく、北京オリンピックの演出も担当した
張芸謀は748万元(約1億2500万円)もの社会扶養費を支払っております。
子供は産んでしまったものの、この罰金を逃れるために、「黒戸」と呼ばれる戸籍上存在しない子供たちが存在します。
もちろん戸籍上の登録がないと教育、予防接種など国からのサービスを享受できないので就業年齢が近くなってくると、その時点で登録されたりするということを以前はよく聞きました。
また、罰金だけでなく法的に結婚できる年齢に達していないカップルの間に子供が生まれた場合、結婚証明書がないため、子供の出生証明もだせず、数年後に届け出を行うというのも聞いたことがあります。
統計方法の正確性だけでなく、このように産んでしまったものの届け出をしたくない人がいるというのも誤差が生まれる原因の一つでしょう。
では、今後出産制限がなくなれば中国の出生者数は増えるのかというと、そうでもありません。
今回の統計の中に最終学歴に関する調査もあり10万人における大学以上の学歴者は8930人から15467人と70%以上も増えました。
大学だけではありません。
娘の幼稚園の友達を見ていると5歳から、英語、算数、ダンス、ピアノと多くの習い事をしており、これらにかかる教育費の家計にしめる割合を考えると、産めよ増やせよというわけにはいかないのです。
また幼稚園や習い事の送り迎えなど時間的にも負担がかかり共働きが多い中国では、祖父母世代に子育てを手伝ってもらうのは、ほぼ常識です。
昔の農業がメインだった時代のように働き手が増えれば、生産力が上がるという時代ではありません。
教育に対して時間とお金を投資をしないと子供たちが幸せになれないと思えば、予算から逆算して出産を控えますよね。
女性も出産、子育てが自身のキャリアに影響するとなれば、例え十分な資金があったとしても、そもそも子供を産まないという選択をする人も増えてきています。
「少子高齢化で何が問題なのか?」という議論で出てくるのは、
「年金がもらえなくなる」など
「支える人と支えられる人のバランスが崩れる」ということ。
ただ、先ほども触れたように、現在の産業は体力を使った農業などではなくなってきています。
その点では年齢だけで一律に「支える側」「支えられる側」という線を引くこと自体の意義が少なくなってきており、今後はもっと少なくなっていくのでしょう。
ウォーレン・バフェットなんて90歳ですけど、桁違いの税金を納めているはずです。
また高齢者になると消費意欲が減るとも言われますが、それは食べる量にはあてはまるかもしれませんが、健康食品など単価が高い消費もしますので、全ての高齢者に一律であてはまることではないと思います。
今後、中国は間違いなく少子高齢化社会を突き進んでいきます。
今回の第七次人口普查から我々が考えていくべきことは、統計上に表れている人口動態をしっかりと見ながらも、この統計上に表れない個々人の差異について理解を深めていくことだと思います。
マーケティングにおいて
「中国人は、みんな××が好きなんです」
というように中国を一括りにした主語を使ってしまいがちですが、
「EU人は、みんな××が好きなんです」
とは、普通は言わないですよね?
国土が広く、多様な文化を持ち、経済的にも地域間格差がある中国。
その多様な一面を理解するのに、今後とも中カツ!通信をご参考いただければ幸いです(笑)
本日も最後までお読み頂きありがとうございます。
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